ネップルタウン物語 第8回 ビ-玉遊び
ネップルタウン物語 第8回
ビ-玉遊び
虹色みつる
雪が解け始め玄関前や道に、六畳ほどの地面が見えてきたら、僕らは早速ビー玉を始めるのだった。
その頃ビー玉には四種類あっていちばん小さい五円玉が直径六ミリ位、中ぐらいの十円玉が直径十二ミリ位、同じ大きさの色玉がたしか三十円くらい、そして一番大きい五十円玉が直径三センチくらいだったと思う。
僕らのビー玉のやり方はこんな風だった。
まず、一辺三十センチくらいの三角形を釘で地面に書く。
そこから三~四メ-トル離れたところに直線を一本引く。
これで準備は出来た。
まず、名々、自分の小玉を三角形の中に一つずつ置く。人数は四~五人でやるのがちょうどいい。 次に、順決めをする。方法は三角形の側から直線に向けて中玉を投げ、線より手前で線に近いものから一番、二番、と順を決める。線を通り越したものはゲレッパ(ビリ)だ。
さあ、これからが本番だ。
一番の者から順に、線の外から三角形に向けて中玉を投げつける。
この時、狙い方は二通りある。一つは、三角形の中心に置いてある小玉にいきなり当ててはじき出すやり方。これに成功したら今回は勝ったも同然だ。
というのは、三角形の中の玉をはじき出した者にのみ、他の子の投げた中玉に自分の中玉をぶつけることで、その玉を自分の物にしてしまえる権利が生じるのだ。
だから一番手の者が第一投で三角形の中の玉をはじき出したら、後の者はそのそばに中玉を投げられなくなる。
ただし、この狙いには弱点もある。
三角の中の小玉をはじき出すにはかなり強く中玉を投げなければならない。弱すぎると、うまくはじき出せても自分の中玉は三角の中に残ってしまうことになりやすい。そうなるとその者はゲームアウトになってしまうのだ。
ところが、かといって、あまり強く投げると、今度は狙いがはずれた時に、自分の中玉は三角からすごく遠い所まで転がって行ってしまう。
だから普通は、三角の向こう側一メートル位の所に転がしておくのが無難だ。
三角形の手前一メートルではいけない。
というのは、一投目に限り、他人の中玉に直接ぶつけると、その玉が自分の物になるというル-ルがあるからだ。だから手前に転がしておいたのでは、後の者に狙われる危険がある。
向こう側一メートル地点か、左右一メートル地点あたりを狙って転がしておくのがふつうだ。
さて一番目の者が一投目を、三角の左一メートルに転がしたとしよう。
二番手は、直接三角の中の小玉を当てに出るか、一番手の玉よりさらに五十センチほど左側に転がしておく手と二通り作戦が考えられる。
無難なのは後の方だ。そこなら、二投目で一番手が、三角の中の小玉をはじき出して、次に他の者の中玉を狙いにかかっても、かなり距離があるので当てられにくいのである。
通常中玉で小玉をはじくと、投げた玉も当てられた玉と同じ方向へ転がって行く。小玉の方が軽いので、中玉をはね戻すよりは中玉と一緒に、向う側へと転げ出るのである。そうすると、一番手の二投目の玉と二番手の一投目の玉とは、三角形の間に二メートル位の距離になる。これなら直接狙われる怖れはない。
後続者もそれぞれ直接狙って行くか、安全なところへ転がしてゆくか、選択して一投目を順に投げてゆく。
そうして全員が一投目を投げ終えたら、また一番手の順になる。
もし彼が一投目で三角の小玉をはじき出していれば、他の者の中玉を狙ってもよし、もう一度三角内の小玉を狙ってもよい。
とにかく、どちらかをはじけば、続けて三投、四投と投げてゆくことが出来るのだ。もちろんはじいた玉は自分のものになってゆく。
もし彼が一投目で三角のそばに着けただけだったら、彼はまず三角内の小玉をはじき出さなければならない。それによってはじめて、他の者の中玉を狙う権利も出来るからだ。
この時、気をつけなければならないのは、小玉をはじいた中玉が、ぐちゃつく土にはまり込んで三角の中に止まってしまうことだ。そうなると彼はゲームアウトである。三角の中にはまってしまった中玉は、最初に置いた小玉と等しく扱われる。誰かがそれをはじき出したら、その玉はその人のものになり、その人は小玉とはじき出した時と同様、他の人の中玉を狙う権利を持つ。
さて、一番手がうまく三角から小玉をはじき出し、自分の中玉も生きたとしよう。
はじき出した小玉はもちろんその人のものになる。
次に彼は、再度三角内を狙ってもよし、他の人の小玉を狙ってもよい。当て続ける限り彼は何投でも出来るのだ。だから最も手近の玉を狙ってゆくことになる。それをはじいた勢いで自分の玉がさらに有利な地点へはじき飛んで行くよう考慮して狙いを定める。
他の人の玉がみな遠ければ、三角内の玉を全部はじき出すことに専念してもよい。そうなると、彼の総取りで、他の人の中玉も全部もらえてゲームオーバーとなる。
だから一番手になるのは絶対有利なのだ。
しかし、通常、一番手が延々とはじき続けることはない。必ず失投がある。
そうなると次は二番手の番である。彼もまず三角内の小玉をはじき出さねばならない。それに成功したら、彼は一番手の時と同様、手近な玉を狙うことになる。
ただし、一番手がすでに三角内の玉を一個でもはじき出していれば、総取りはない。
三番手以降も同様にやっていく。
順位の遅いものの場合、三角内の玉がひとつもなくなっていることもある。そうなると彼は、残念ながら、ひたすら逃げ回って、最後は結局、権利のある者にはじかれて終わることになる。
だから最初の順番決めは勝敗を決するほど大事なのである。
ところで、はじく、当てると何度も言って来たが、その際のルールは二つある。
まず、ふつうの場合、玉を投げる者は、自分の玉があった箇所に片足のかかとを固定して、投げなければならない。もう一方の足の踏み出し方は自由である。子供の手足であるからせいぜい一メートル以内が、玉を指でつまんだまま、コツンと他の者の玉にタッチできる限界であったと思う。それ以上の距離となると、精一杯足を踏み出した姿勢から狙いをつけて投げることになる。そうして、確実に当てられる距離は一メートル半ぐらいであったと思う。もちろん、まぐれで何メ-トルも離れた玉を当てて一挙に形勢逆転となることもある。
玉の当て方のもう一つのルールは「目玉落とし」と呼んでいたものである。
二つの中玉が十センチ以内の距離に転がり合っていた場合には、両かかとをくっつけ、つま先を九十度に開き、直立の姿勢を取り、片方の目に自分の玉をつけた状態から地面に向けて玉を落とすのである。
これは簡単に当るようで実はなかなか難しい。最後まで残った二人が、代わるがわる目玉落とし合戦をして決着が着くこともよくあることだった。
このようにして僕らは、春休み中をビー玉遊びに興じていたものである。
その頃、みかんの箱は木箱ばかりであったが、十八センチ×二十五センチ×深さ十五センチほどの小箱にビ-玉を一杯集めたこともあった。
一方、負けてすっかり取られてしまった時には町の駄菓子屋さんで、なけなしの小遣をはたいて仕入れるのであるが、新品のビ-玉は皆に狙われやすいので、負ける奴はずんずん負けがこんでゆくのだった。
今述べた遊び方の他にビー玉野球というのがあったが、これは人数が二~三人しかいない時に仕方なくやった遊びで、たいして面白くもなかったので省略する。
僕らの間では、ビー玉をする季節は毎年、早春の雪解け時期に限られていた。
別に決まりがあったわけではないが、夏や秋には絶対しなかった。春でも、土がすっかり固まるようになるともうしなかった。他の季節にはそれぞれその季節でなければ出来ない遊びがいっぱいあったし、何より、ビー玉をするには、雪解け水で土がまだぐちゃぐちゃしている間でなければつまらなかったのだ。
雪と氷におおわれた長い冬が終わって、ようやく土が見えてきた、その土に触るというのがビー玉遊びの本当の楽しみ方だったのだ。
ぐちゃぐちゃ土にまみれた僕らの指は、この時期一年で最もひどくあかぎれてヒビ割れていたのであったが、それでもやっぱりやめられないのがビー玉の魅力であった。
僕はもう四十年近くもビー玉をしていないが、雪解け頃の路地を歩いて、三坪ほどの裸地を見かけると、ああここはビー玉をするには最適だと胸が高鳴ることがある。
そんな格好の場所でビー玉をはじいてる子供が今は全くいないのはほんとに残念でならない。
(了)
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コメント
リンクで使わして頂きました。詳しく書いてありますね。他に「ナッキ」「天国」とか言っていた物もありましたが、遊び方やル-ルを忘れてしまいました。お書きに成った物は当地宮崎では「三角出し」とか言っていたような気がします。
投稿: hiro | 2007年9月17日 (月) 13時53分